シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 出来上がったデセールを乗せたワゴン。
 それを押す手は、今日は震えてはいない。

 けれど代わりに、胸を占めるのは自分の浅ましさだ。

 昨夜のことを、秘密にしている私。
 それを誇らしくすら思ってしまう、私。

 溜息をもらし、同時によし、と気合いを入れた。
 慧悟さんを慕う『前埜希幸』を胸に仕舞い、パティシエールの仮面を纏う。

 昨日と同じ席に、幾美家ご夫妻は座っている。
 笑顔の仮面のまま運ばなければ、昨夜のことを悟られてしまいそうな気がした。

 *

「幾美家の皆様には、本当にお世話になりました」

 デセールを提供すると、お二人は終始太鼓判を押してくれた。
 そんなご夫妻に、私は頭を下げる。

「私たちは少しお金を出しただけ。頑張ったのは希幸さんじゃない」

 奥様はにこやかに笑いかけてくださる。

「それでも、今の私があるのは、幾美家の皆様のおかげですから」

 貼り付けた笑みを浮かべ、喜びを体現してくださるお二人に向けた。
 幸せそうなお二人を見ていると、幾美家の優しさと寛大さが伺えて、余計に自分のさもしさが強調されるようだった。

 本当は、笑いたくなどない。
 けれど、笑みを浮かべていないと胸の奥を大きな黒い感情に押し潰されてしまいそうだ。

『昨夜、私はとんでもない過ちを犯してしまったんです、ごめんなさい』

 そんなことは、もちろん言えない。
 慧悟さんを守りたいし、大好きな幾美家も壊したくない。
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