花咲くように 微笑んで
第十五章 『Be you tiful』
みなと医療センターでのボランティアにも、少しずつ通い始めた。

入院中の子ども達の顔ぶれは入れ替わっており、三浦がかつて王子様役として紙芝居に参加していたことを知る子はいない。

菜乃花は、新しい子ども達にも楽しんでもらえるよう、毎回あれこれ考えながら本を選び、読み聞かせをしていた。

三浦と会うことはなく、おなはし会を終えると本棚の整理をしてから看護師長に挨拶して帰る。

週に1回通っているにも関わらず、三浦にも颯真にも会うことはないまま月日は流れていった。

秋の気配が深まった頃、菜乃花は仕事休みの日に久しぶりに有希と春樹のマンションを訪れていた。

「いらっしゃい、菜乃花ちゃん。どうぞ入って」
「こんにちは、有希さん。お邪魔します」

産後まだ2ヶ月足らずだが、有希は元気そうで菜乃花は安心する。

出産祝いに花束と、布製のベビー絵本をプレゼントした。
布の中に色々な素材が入っており、赤ちゃんが握るとそれぞれ違った手触りが楽しめ、りんごやバナナや象など大きなイラストも描かれている。

「ありがとう!こんなのあるのね。早速見せてみようっと」
「はい。気に入ってくれるといいな」

有希は菜乃花をリビングの端に置かれたベビーベッドに案内した。

「ほーら、瑞樹(みずき)。菜乃花お姉さんが来てくれたわよ」

ベビーベッドから赤ちゃんを抱き上げて、有希が優しく声をかける。
その横顔はすっかりママの顔だった。

菜乃花は念入りに手を洗ってから、赤ちゃんを抱かせてもらう。

「うわー、可愛い!ふわふわ!甘くていい匂い。初めまして、瑞樹くん」
「ふふ、菜乃花ちゃん、抱っこ上手ね」
「え、そうですか?これで大丈夫?」
「うん!いつでもママになれるわよ」

有希はにっこり菜乃花に笑いかけた。

布絵本を手に握らせてあやしたり、たくさん写真を撮ったりと、菜乃花は赤ちゃんに心癒やされた。

授乳を終えてお腹がいっぱいになった赤ちゃんが眠ると、有希と菜乃花はソファに座って紅茶を飲みながらおしゃべりする。

「菜乃花ちゃん、その後どう?」
「いつもと変わらない毎日です」
「え?何も変わらないの?」
「はい。図書館で仕事をして、休みの日は週に1回ボランティアに行っています」
「それだけ?デートしたりは?」
「いえ、全く」

はあ、もう、やれやれと有希はソファの背に身体を預けて腕を組む。

「もう4ヶ月経つわよね?三浦先生と別れてから」
「えっと、そうですね」
「それでまだ何もないなんて。三浦先生が知ったら怒り心頭じゃないかしら」
「ご、ごめんなさい」
「菜乃花ちゃんに対してじゃないの。『鈍感気弱な勇気0%男』に対してよ」
「は?有希さん、色んな人種をご存知ですね」

菜乃花は目をぱちくりさせる。

「ちょっとこれは春樹にも知らせなきゃ」

有希はスマートフォンに何やら素早く入力していく。
これでよし!と顔を上げると、菜乃花に尋ねた。

「菜乃花ちゃん。今日は夕食まで時間ある?ここで食べていかない?」
「あ、はい。お邪魔でなければ。それとこれ、デパ地下でお惣菜買ってきたんです」

菜乃花はデパートの紙袋を有希に手渡す。

「え、こんなにたくさん?ありがとう!助かるわ。早速、今夜はこれを頂いちゃうわね」
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