花咲くように 微笑んで
「ご馳走様でした」

レストランを出ると、会計を済ませてくれた三浦に頭を下げる。

「どういたしまして。これくらい当然だよ。それより次は、ふれあい広場に行ってみない?カピバラもいるんだつて」
「え、カピバラ!見たいです」
「よし、行こう。こっちだよ」

すると三浦は、さり気なく菜乃花と手を繋いだ。

突然のことにドキッとして、思わず菜乃花は頬を染めてうつむく。

繋がれた手の温もりを感じながら、菜乃花は緊張しつつ三浦に手を引かれて歩いた。

カピバラの他にもペンギンやペリカン、カワウソなど、様々な動物達に菜乃花は興奮気味になる。

「先生、見て!カワウソにごはんあげられるんだって」
「へえ、やってみる?」
「うん!」

菜乃花が手のひらに載せたエサを、カワウソは小さな手でムギュッと掴もうとする。

「ひゃー、可愛い!肉球がぷにぷに!」

満面の笑みで振り返る菜乃花に、三浦は目を細める。

お土産コーナーでは、カワウソのマスコットキーホルダーを菜乃花にプレゼントした。

「ありがとうございます!じゃあ、私からはこれ」

そう言って、菜乃花はカピバラのキーホルダーを三浦に渡す。

「なんとなく先生に似てるから」
「え、そう?」

顔の横にキーホルダーを持ってくると、菜乃花は「うん!似てる」と笑う。

「ありがとう、嬉しいよ。大切にする」

夜景の綺麗なレストランで夕食を食べる頃には、菜乃花はすっかり三浦と打ち解けて話すようになり、そんな菜乃花に三浦はますます想いを強くする。

「じゃあ、ここで。今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」

マンションまで送ってくれた三浦に、エントランスの前で向き合う。

「俺の方こそ、ありがとう。あの、また誘ってもいいかな?」

ためらいがちに聞いてくる三浦に、菜乃花は頷いた。

「はい。大丈夫です」
「良かった!ありがとう」

ホッとしたように微笑んでから、急に真顔になる。

菜乃花が、どうしたのかと少し首を傾げると、三浦は菜乃花の両肩に手を置いた。

(…え?)

身体が引き寄せられ、目を閉じた三浦の顔が触れそうな程近くまで来ると、菜乃花は思わず身を固くして後ずさった。

ハッとしたように三浦が目を開き、菜乃花の肩から手を離す。

「ごめん!俺、思わず…。本当に悪かった」

いえ、と菜乃花はうつむいて小さく答える。

「ごめんね。俺、また急ぎ過ぎたな」

はあ、とため息をついてから、三浦は改めて菜乃花に向き合った。

「菜乃花ちゃん、今日は本当にありがとう。また連絡するよ。お休み」
「はい、お休みなさい」

三浦は微笑んで頷くと、菜乃花がエントランスを入って見えなくなるまで見送っていた。
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