二人の永遠がこの世界になくても
「とりあえず座って。これからのことはゆっくり決めましょ」

やたらとご機嫌なママが、男の子をソファに促しながらアイスティーを振る舞った。

今は十二月だ。
今日も風が強い。そんな中で、どれくらいかは分からないけれど外に居たのならあたたかい飲み物がいいかもしれないのに、ママは問答無用でアイスティーにした。

私も元々座っていた場所に座り直して、ご機嫌なママを横目で見ながらグラスの麦茶を飲み干した。

ママは可愛い物好きだ。
この男の子のことだって、犬か猫みたいに思っているに違いない。

ママ好みの可愛い系のアイドルと言われれば確かに納得できる、可愛い顔だ。

「ゆっくり考えましょうなんて、一体何日置いておくつもりよ」

「もう。そんな冷たいこと言わないの。気にしなくていいんだからね?好きなだけ居てくれれば」

「ありがとう!ママさんは優しいね」

あーあ。やってらんない。
なんなのよ。こんな状況…絶対に普通じゃ無い。

「ねぇ、名前は?」

「ん?俺?」

「私がこの場所で名前を知らないのは君だけだよ」

「あはは!確かに。俺は、しゅんか」

「しゅんか?」

「“春”に、“中華”の″華“で、しゅんか」

「ふーん。なんか、」

「女子みたい?」

「…別に」

「綺麗な名前ね。春に生まれたの?」

ママが目を細めて、まるで春の陽気を感じているみたいな表情をした。

「この辺だと…桜…の咲く季節だよ」

”この辺だと“…?

北海道か沖縄辺りの出身なのかな。
だから本州とは花が咲く時期が違うって言いたいのかもしれない。

いや…。そんな遠くからどうやってうちまで来たって言うんだ!

「君は?」

「私の名前?…ヨヅキ」

「ヨヅキ?」

「そう。夜の月」

「へぇー…すごく綺麗だね」

「あ…りがと」

「ヨヅキは何歳?」

「十七歳。高二」

「じゃあ俺よりお姉さんなんだ!」

「春華は?」

「十四」

「十四!?中二ってこと!?」

「んー、うん。そうだね」

「ねぇ、尚更早く帰したほうがいいんじゃない?絶対お母さん達心配してるって!」

「夜月ってばそればっかり!春華くんの何がそんなに不満なの」

眉間に皺を寄せてまで私を嗜めようとしているママが心底不思議になって、ママの顔をジッと見た。

おかしいのはママのほうだ。

なんで得体の知れない人間を、なんの疑いも無く当たり前のように受け入れることができるんだろう。

それも、ただ時々面倒みてあげるね、とかのレベルじゃない。
一緒に暮らそうって言うんだから、どう考えてもこれは異常だ。
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