人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
序章
 カーティスは歯を食いしばる。
 これから騎士団の昇格試験だというのに、何かがおかしい。
 先ほどから身体が火照り、心臓がバクバクと大きく波打っていた。手足の先まで熱い血液がたぎっていくのが、はっきりとわかるほど。
(やられた、あの食事か)
 幸いにも、朝食を終え自室に戻ってきたところだった。周囲に人はいない。
 じんわりと額に汗がにじみ出る。
 騎士団におけるカーティスの立場は微妙なものだった。それは彼の出生と年齢が関係しているのだが、だからこそ今回の昇格試験では何がなんでも等級をあげたかった。
(くそっ)
 ダンッと乱暴に部屋の壁を叩く。それだけでこの身体の熱が冷めるわけなどない。
 試験まで三時間ある。これが「まだ」なのか「もう」なのかはわからない。だが三時間だ。
 荒く呼吸をしながら、できるだけ昂ぶりを静めようと考えてみた。
 考えた結果、助けを求める先は治癒室しか思い浮かばなかった。
 あそこであれば、この症状を緩和してくれる治療薬があるはずだ。
 じわりじわりと下腹部にたまる熱に耐えながら、治癒室へと向かう。
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