人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
第八章:たくさんの『∵』が困っています

1.

 昼休憩から戻ったルシアは、外に出て休憩中の看板を取り下げた。
《なんで、ここから動けないのよ! お祭りよ? お祭りやってるのよ。お祭りを見に行こうよ~》
 クレメンティがふらっと現れた。となれば、カイルは眠ったのだろう。カイルをルーファの部屋に置いてきたときには、眠そうでありながらも、絵本を呼んでくれとねだっていた。そのまま眠ったにちがいない。
 その様子を勝手に想像して、口元をゆるめる。
 カイルは、ルシアが昼食の準備に戻ったときにカーティスと楽しそうに遊んでいた。
 カイルとカーティスはそっくりらしい。それでもルシアにはカーティスすら『∵』に見えるのだ。どこにそっくりな要素があるのか、さっぱりわからない。
 もともと人なつこいカイルではあるが、カーティスにあれだけ心を許してなつくとは思ってもいなかった。
 少しだけ悔しい気持ちもある。
《ねぇねぇ、ルシア。聞いてるの? 外に出ようよ。ルシアが外に出てくれないと、私もいつもと同じようにこの辺をぐるぐるするしかないんだよ~》
「もう、うるさいっ!」
 カタンと音がして、ルシアははっとする。
「大丈夫か? ルシア」
「あ、お義父さん……もう、大丈夫なの? カイルは? 殿下は?」
「殿下は裏から帰った。カイルは私の部屋で眠っている。どれ、かわろうか」
 ルーファは治癒院に立つつもりらしい。
「でも、魔力は?」
「昼前にぐっすりと眠らせてもらったからね。それよりもルシア。一つ、頼まれてくれないか?」
 そう言った彼は白の長衣を羽織る。
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