人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

「うん。王宮治癒師として戻ることになった。といっても、一時的だけどね。急に魔薬中毒の患者が増え始めて、今日はあのあと、大変だったのよ」
《ごめんね。カイルが起きてるときは、私も消えちゃうし》
 だからといって、クレメンティがいたところで、治療が早く終わったとも思えない。なによりも彼女は、他の人からその存在すら認められていないのだから。
「別に、クレメンティのせいじゃないでしょ?」
《そっか。そうだよね。で、麻薬中毒と王宮治癒師って……。いったい、どんな話になってるの?》
 ルシアはぽつぽつとクレメンティに説明をし始めた。
 カイルが起きている間は消えているクレメンティだが、彼女はその間、眠っているらしい。だから、ルシアの話を聞き、状況を整理している。
《了解、了解。わかったわ》
 空中に浮いている彼女は、足を組んで座っているかのようなポーズをとっている。
《それにしても、異常な数よね。しかも小さな男の子だけって……なぜかしら?》
 それはルシアも聞きたい。共通点は小さな男の子。そして、微かに感じた甘いにおい。
《カイルも気をつけたほうがいいわね。ルシアの話を聞く限り、その条件に合うのはカイルよ》
「そうね……」
 だから小さな患者たちを助けたいのだ。苦しんで、助けを求めている姿が、どこかカイルに重なってしまう。
「ねえねえ、クレメンティ……。カイルの父親って、やっぱりカーティス殿下なのかな?」
《それを私に聞く?》
「聞く。クレメンティなら、なんとなくわかるんじゃないの? その血の繋がりというかなんというか……」
《そうねぇ?》
 腕を組んだクレメンティは、眉間に力を込めた。額にしわが寄る。
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