人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

3.

「時間稼ぎだろう。実際、私たちは騙された……。とにかく、あのクッキーには魔薬が使われているのがこれで証明できたわけだ。すぐに上に報告する。まずは、露店で買ったクッキーを食べないようにと通達を出してもらう。ルシアは、このクッキーが売っていた場所を詳しく聞かれると思うから、そのつもりでいてくれ」
「わ、わかったわ……」
 何気なく買ったクッキーがこんなことになるとは。
「おはようござります……」
 張り詰めた空気を、寝ぼけた挨拶が遮った。
「師匠。すみません。続きをやらせてしまって……」
 徹夜明けのホレスは、治癒室が開くまで仮眠を取っていたのだろう。まだ、うっすらと目の下に隈がある。十分に休めたとは言えない状況だ。
「ホレス。当たりだ。出た」
「魔薬の反応ですか?」
 寝ぼけ眼だったホレスの目が、かっと見開いた。
「そうだ」
 ルーファは続ける。
「今、ルシアにも説明したところだが。直接、魔薬が練り込まれたわけではない。通常の成分分析では検出されなかっただろう?」
「そうですね」
 ホレスも頷く。
「小麦粉の肥料に魔薬が使われ、その小麦粉を使ったクッキーがこれだ。このやり方であれば魔薬成分を含んでいるクッキーであっても、それが検出されない。あまりにも、魔薬成分の濃度が薄いからな。それでもずっと摂取し続ければ、それなりに身体に影響が出る」
「師匠でなければ、気づかなかった……」
「通常の治癒師では魔力が不足してここまでの分析はできないだろう……ルシア」
「はい」
「このクッキーをどこで売っていたか、場所は覚えているな?」
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