人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

3.

*~*~*~*~*

 カーティスはルーファを探していた。できれば彼から話を聞きたい。
 ルーファからルシアとカイルを紹介されたとき、あの場の近くにいた者は、カイルとカーティスに血のつながりがあるとわかったはずだ。あのざわめきが何よりの証拠でもある。
 それでも彼女は、それに気づかぬかのように振る舞っていた。
 もしかして、あのときのことを怒っているのだろうかと思ったのだが、そんな様子も感じられない。カーティスと一緒に踊っている彼女は、楽しそうに見えた。
 だが、カーティスがカイルの父親を尋ねれば「魔獣に殺された」と言う。嘘をつかねばならない理由があるのか。
 もう少し話をしたいと思ったが、カイルを理由に断られてしまう。そこに助け船を出したのがルーファなのだが――。
 ルーファは間違いなくカーティスとカイルの関係を知っている。だからこそ、ルーファが敵なのか味方なのかをはっきりさせたいという思いはある。
 ダンスのあと、なんとかルシアを外に連れ出し、あのときの話を確認しようとしたが、彼女は相手の顔を覚えていないと言った。
 いや、それでもカーティスがカイルと並べば、他人のそら似どころではないことに気づくと思うのだが。
 わからない。彼女がわからない。カイルの父親だと名乗っていいものかどうかもわからない。名乗りかけたのだが、それは彼女によって遮られた。多分、伝わっていない。
 だからこそ今、ルーファを探していた。
「ルーファ」
 彼は、先ほどと同じ場所で酒を飲んでいた。彼は昔から酒が好きだった。一人で黙々と飲むタイプの男なのだ。
「孫守は終わったのか?」
「えぇ。子どもは眠る時間ですからね」
「ルシア嬢は……」
「ルシアのことですから、カイルが寝るなら彼女だって部屋に戻りますよ。で? お話はできたのですか?」
 カーティスは給仕を呼び止め、酒の入ったグラスをもらった。はっきりいって、酔わないと話せない。
 グラスを傾け、中に入っている葡萄酒を一気に飲み干す。空になったグラスを、給仕が手にしている銀トレイの上に戻した。
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