天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「あ、あああなた、いったいなにを寝惚(ねぼ)けたことをっ!」
「寝惚けてなんかいない。俺は本気だ」
「なおさら悪いです! それに白拍子の私が子どもを作るなど許されることではありません!」

 子を孕むということは殿方の夜伽をするということ。白拍子は処女であらねばならないのに、そんなこと許されるはずがありません!
 しかし黒緋は穏やかな様子のまま続けます。

「それは問題ない。俺の子を孕むのに夜伽は必要ない。俺にとって夜伽はあくまで快楽のためのもの。子を作るのは処女のままでいい」
「えっ……?」

 言い切った黒緋に絶句しました。
 今度は本当に意味が分かりません。
 子を孕むのに夜伽は必要ないというのです。そんなことあり得るのでしょうか。
 おそるおそる黒緋を見ると、とても(たわむ)れを口にしているようには見えません。ということは本気なのですね……。
 でもたしかに黒緋ほどの陰陽師ならそういう不思議なことも可能なのかもしれません。そういう秘術でもあるのでしょう。
 しかしだからといって子どもを作るなど簡単に了承できるはずがありません。だいたい黒緋とは出会ったばかりなのです。それなのにっ……。

「お、お断りしますっ。それは出来ません。私が子どもを孕むなんて」
「なぜだ。俺は強い子どもが欲しいんだが」
「馬鹿言わないでくださいっ。なにが強い子どもですか!」

 猛烈に拒否しました。
 もう駄目です。これ以上話しているとおかしくなってしまいそう。
 私は立ち上がり、「そんな馬鹿なこと二度と言わないでください!」と逃げるように立ち去りました。




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