天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
天妃物語

 私と黒緋は抱きあったまま夜明けを迎えました。
 でも肌を重ねたことは暗黙(あんもく)の秘密。
 黒緋と萌黄は三日夜餅(みかよのもちい)の最中なのに、その大切な二夜目に黒緋が萌黄以外と肌を重ねたなどあってはならないことでした。
 そして今、朝を迎えて私たちは何事もなかったように朝餉(あさげ)を囲みました。萌黄や紫紺や青藍の前で普段通りにすごしたのです。
 萌黄は二夜目に黒緋が夜這(よば)いにこなかったことを不審《ふしん》に思ったかもしれませんが、特になにも聞いてくることはありませんでした。
 それにほっと胸をなでおろしたけれど、でも私は昨夜の決意を忘れていません。
 朝餉が終わると黒緋は離寛と(みやこ)の見回りに行きました。離寛の調べではまた結界が破られて都に不穏な邪気が漂っているそうです。
 黒緋不在で今日は鍛錬がお休みになり、紫紺は手習(てなら)い、青藍は遊んだりお昼寝したり自由にすごします。
 萌黄は御所(ごしょ)へ行って香合(こうあわ)せの催しに参加しに行きました。香合(こうあわ)せは歌合(うたあわ)せと同様にやんごとない身分の方々の(みやび)な遊びですが、社交場として不可欠な場所なのだそうです。
 私は黒緋と萌黄を見送ると土間(どま)で炊事をし、それが終わると紫紺の手習いの相手をしました。もちろん青藍の遊び相手もしてあげます。
 昼餉(ひるげ)を終えると紫紺は午後からも手習いの続きをし、青藍はそろそろお昼寝の時間ですね。

「……あうー、あー」
「いい子ですから、そろそろ眠りなさい」
「あうあー」
「分かっていますよ。まだ遊びたいんですよね? でもあなたはまだ赤ん坊なんですからお昼寝は大切なんです」
「ぶー」
「ぶー、ではありません」

 おしゃべりしながら青藍を抱っこでゆらゆら揺らしてあげます。
 そうしているうちに青藍はうとうとし始めて……。

「……ぷー……、ぷー……」
「かわいい寝言ですね」

 青藍はスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていきました。
 私は起こさないように気を付けながら寝床に寝かせてあげます。
 少しの(あいだ)、青藍の寝顔をじっと見つめました。
 いつまでも見つめていたい寝顔だけれど、振り切るように立ち上がって次は紫紺が手習いしている部屋へ。
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