愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 心の中で必死に祈り続ける雅。しかしながら、神が聞き届けてくれた願いはたったの半分だけだった。

 自身の唇に今まで触れたことのない感触のものが触れてくる。しっかりとした質感はあるのに、反発力は強くない。雅の唇によってそれが沈み込むのがわかる。雅の唇も同様に己のほうへと沈み込む。

 そのなんとも奇妙な感触に、雅はぞわぞわと何かが背筋を這っていくような不快感を覚える。制御していた恐怖心もまた沸き上がりはじめるが、徐々に自身の唇にかかっていた圧力が減っていったことで、雅は取り乱すことなく、なんとか無事にその難所を乗り越えた。

 それは雅のファーストキスであったが、物語にあるような甘さなんて微塵もなく、ただただ恐怖を堪えるうちに終わっていた。


 最大の難所を乗り越えてしまえば、雅は心に少しばかりの余裕ができ、その後は得意の淑女の仮面を被ってすべてを上手くやり過ごした。

 いったいなぜ人生の晴れの舞台である自身の結婚式で、雅がこんなにも後ろ向きな心持ちでいるのか。それはひとえにこの結婚が政略的に決められたもので、愛の欠片も存在しないものだからである。
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