一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜

第1話 再会

 ベリが丘の街は地味な私が霞んで消えそうな程にラグジュアリーで、キラキラした街だ。

「いらっしゃいませ」

 私、堀田愛海(ほったまなみ)はこの街の総合病院内にある某チェーン店のカフェに異動となり、そこで働き始めてから1週間になる。
 しかしこの病院は、病人にはどう見ても見えないセレブが数多くやって来る。皆ブランドものの服を身に着けて優雅に脚を組んだままコーヒーを飲んだり、タブレットを動かして暇つぶしをしながら順番待ちをしている。
 
(前にいた大学病院とはえらい違いだ)

 以前いた大学病院のカフェは、都会から離れていた立地という事もあってかここまでラグジュアリー感は無かった。正直1週間たってもこの温度差には慣れないでいる。
 だが、客はひっきりなしにやって来る。患者から、近くに住んでいる人達にこの病院で働いているスタッフまで実に様々な人達がこのカフェに訪れては列をなしていく。

「このキッシュ1つください」
「はい。あたためますか?」
「や、そのままでお願いします。あとこのラップサラダと、抹茶のラテ一番小さいのください」
「はぁい。えと、○×□□円となります」

 今、接客したのは若い女性の看護師だ。明るい茶髪に、つやつやで隅々まで手入れの行き届いたネイルにメイクも濃い。

(この看護師もお金一杯稼いでるんだろうな)

 小柄ながらも全体的にしゃきっとしていてはきはきとした声。私とは違う。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」

 その看護師は商品を受け取ると、早歩きで去っていった。これから詰め所で昼休憩と行くのだろう。

(あんだけキラキラしてたら、彼氏とか普通にいるんだろうなあ)

 彼氏。私は彼氏が欲しい。いや、学生時代にいた事はあるのだが、色々あって長続きしていない。

(駄目だ、変な事考えてしまう)

 彼氏じゃなくても良いから、気兼ねなく話なんかが出来る男が欲しいという欲は少しだけならある。だが仕事は忙しいし、その分家に帰ると何もせずに過ごしてしまう事が多くそれどころではないというのもある。
 気が付けば勤務終了の17時半。今日もこうして自分の仕事は無事に終わった。ちなみにこのカフェは病棟の消灯時刻である夜の22時までオープンしている。

「お疲れ様です。お先に失礼します」

 
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