一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 同僚や先輩後輩に挨拶し、彼らと共に片づけをしてカフェを出た。退店後は24時間オープンのコンビニで晩御飯を買って帰るのがルーティンと化している。
 私はおにぎりと肉団子の和風スープを購入して、病院を後にした。ベリが丘の夜は、ネオンがきらびやかで華やかで眩しい。まるで宝石箱のようだ。
 明るいのは良い事だが、同時に1人暮らししている私がなんだか情けなく思えてきて、少し寂しい。

「寒いし早く帰ろう」

 目の前に巨大なツインタワーが見えて来た。どうせあのタワーにはカップルや家族連れが今日も多く来ているのだろう。

(自分で言うのもなんだけど、根暗だな私……)

 すると、私を後ろから呼ぶ声が聞えて来た。だが、堀田という苗字くらい、何人もいる。本当に呼ばれているのは私なのだろうか?
 おそるおそる声のする方を向いてみた。そこには黒髪のショートヘアに長身の男性が笑顔を浮かべながら手を振っている。

「ああ! やっぱり堀田だ!!」
「え、えーーと……」
「藤堂成哉だよ。覚えてる?中学と小学校一緒だったじゃん」
「ああ、あの……!」

 藤堂成哉。私の初恋の人で、片思い相手だった人。中学時代は彼はクラスからの人気者で、文部両道で女子男子問わずモテモテだった。
 彼女がいたという噂があったので、私は遠目から彼を眺めるか、時折勉強の事でアドバイスを貰うくらいしか接点は無かったのだが。

「堀田久しぶりだな。元気にしてたか?」

 いきなりの再会で、私の頭は完全に混乱している。

「あ、え……?」
「ごめんごめん、びっくりさせちゃった」
「私の事、覚えてくれてたんだ」
「当たり前じゃん。小学校から9年も一緒だったらそら覚えてるでしょ」

 さも当然のように語る成哉を見て、私はぽかんとするよりほかなかった。だが、彼のこの気さくで明るいオーラとトークはあの頃から変わっていなかったので、少しだけほっとしたのだった。

「なあ、せっかくだしどっか店寄ろうよ。腹減ったっしょ」
「え、良いの?」
「良いに決まってるじゃん! ほら、いこいこ!」

 成哉に連れられてやってきたのは、ビジネスエリアのホテルがいくつか立ち並ぶ箇所にあるバーだった。

「私あんまお酒飲めないんだけど……」
「ジュースもあるよ。あとピザとか軽食もある」
「そっか、じゃあ楽しみかも」

 胸の中がドキドキと高ぶっていく。
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