一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「愛海、もう寝る?」

 リビングに戻ると成哉が食卓テーブルにてノートパソコンで何やら書類を作っている場面に遭遇した。聞けばこれは学会で発表する分の資料を作成しているのだと言う。

「持って帰ってきちゃった。あと少しで終わる所」
「おおっ頑張れ」
「頑張るわ。愛海はどうする?」

 成哉にそう聞かれ、ふとテレビの横に置かれた棚の中にある調理師免許の問題集に目が行った。私はそれを棚から取り出して成哉と向かい合う位置に座って、本を開いた。

「勉強?」
「うん。さっき、夢見てたの。アンティークな部屋にいる夢。私もあんな感じのカフェ開いてみたいって思ったんだ」
「おおっ頑張れ。でも無理すんなよ」
「勿論。倒れちゃ元も子もないよね」
「そうそれ。病院内で過労で倒れたり、辞めたりしていった人ベリが丘ではあんま聞かないけど他所の病院だと多いみたいな話も聞くからさ」
「それってもしかして……ブラック?」
「分かんない。けど病院によってはそう言う噂あるよ」
「ま、まじか……」

 となると、ベリが丘の総合病院はまだ恵まれている方かもしれない。

「俺、愛海の夢応援するよ。それでもし喫茶店オープンさせたら俺も手伝う」

 成哉はパソコンの画面から私に視線を移し、穏やかな笑みを浮かべる。

「えっいいの?」
「勿論! でも、休みの日だけになってもいい?」
「いい! 全然いい!」

 私は手を振りながら彼にそう答えた。だって手伝ってくれるだけでも有難いのだ。それに、医者を辞めてまで私に付き合うのはなんだか申し訳無さを感じたのもある。

「その代わり、なんだけど」
「何?」
「成哉さんには以前言ってたように、先輩方達のような立派な外科医になってほしい。私もカフェオープン出来るように頑張るから」
「愛海……」
「だから、一緒に頑張ろう」
「……ああ!」

 彼とまことがいれば、1人で孤独に頑張るよりも頑張れるかもしれない。そう思ったのだった。

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