彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
総務部のドアがノックされ、ユニバースシステムの担当者、姫川(ひめかわ)さんが姿を見せた。
彼はユニバースシステムの後継者で、若い彼は現場経験を積んでいる最中だ。

「姫川さん、今日、何かありました?」

梨香さんが問いかけた。

「実は、担当が変わることになりまして、後任と共に挨拶に参りました」

彼の背後から姿を見せた人物を目にした瞬間、私は目を剥いた。

俊哉!

入社した当時は、こんなこともあるのではないかと警戒していたが、最近はすっかり油断していた。
どうしてよりにもよって俊哉が……

「初めまして、後任の千財俊哉です。よろしくお願いいたします」

相変わらず爽やかさを振りまいている。
一人ずつ名刺を配り始め、当然私のところにもやって来た。不本意だが、「よろしくお願いします」それだけ口にして名刺交換をする。手にした名刺の名にふと目がいった。
"俊" そうだった。同じ俊という字を書くんだった。
そんなことも忘れるくらい、私の頭も心も俊佑さんで満たされていたのだ。
俊哉の何かもの言いたげな視線を無視し、平静を装い席についた。

淡々と業務をこなす。けれど、段々息苦しくなり、郵便局に書類を持って行くと告げ、会社を飛び出した。

前任者と同様、そう頻繁に顔を出すわけではないと思うが、非常に憂鬱だ。でも、私は何も悪いことはしていない。堂々としていればいい。俊佑さんという素敵な婚約者もいる。

よし、郵便を出して戻ろう!

窓口でのやり取りが終わり、私は郵便局をあとにした。
少し歩いたところで、大通りを挟んだ向かい側に止まったタクシーから、一際目を引く男性が降りてくる姿が目に入った。

俊佑さん⁉︎
どうしてこんなところにいるの?
病院にいるんじゃないの?
どこに行くの?

直接会って訊いてみようか。
でも、出来なかった。
すぐ目の前にあるホテルに迷うことなく入って行ったから。
洗練された佇まいのホテルを見上げると、上階に全面ガラス張りのジムが見えた。ジムなんか必要ないんじゃないの?と言わずにはいられない男女が汗を流している。
いや、そんなことはどうでもいい。
私はすぐにメールを送った。

『お疲れさまです。今仕事ですか?』

しばらく待ったが、返事はなかった。既読にもならない。仕事にも戻らなければならないし、湧き上がる不安を抱えながら、私は会社に戻った。
< 114 / 151 >

この作品をシェア

pagetop