陽之木くんは、いつもそうだ。
「……フフッ。 懐かしいわね」

 村山さんの声で、我に返る。 そういえば「その本、シリーズたくさん出てるわよ」って声をかけてくれたのは村山さんだった。

「その節は、うるさくしてしまってすみませんでした……」

 探すことに夢中になって声の音量を気にせず陽之木くんと話してしまった二年前のことを、今さら謝る。

「いいのよ、他に誰もいなかったし。 むしろ青春のおすそ分け貰っちゃって、なんだかごちそうさまーって感じだったわ」

 意味深な言い方をする村山さんに、無性に恥ずかしくなって頬がカッと熱くなった。
 確かに私たちは、青春の真っただ中にいたのかもしれない。

「そうそう、あのとき茅野さんは一生懸命絵本を見てたけどね。 彼の方はずーっと茅野さんを見てたのよ」
「え?」
「茅野さんは気付いてなかったと思うけどね。 ……って、こんなこと言うのは野暮だったかしら」

 村山さんはフフ、と嬉しそうに笑いをこぼした。

「あ! いけない、先生に資料持ってくるように頼まれてるんだったわ。 一応返却のみってなってるけど自由に使ってていいからねー」

 村山さんは急いで資料を探し出し両手に抱えると、大慌てで図書室をあとにした。
 図書室には、再び静寂が訪れた。

 陽之木くんが私を見てた? どうして?
 ……いや、嘘だ。 私を見てたら陽之木くんはハリーを探せないじゃないか。

 ――きっと茅野ちゃんは、心が綺麗だからすぐハリーを見つけられるんだね

 ふと、ハリーを見つけられない陽之木くんに例の笑顔で言われたことを思い出した。
 その時私は、なんてテキトーな人だろうって思って……

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