星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 待機場所に着いた絃斗は、すぐに詩季に抗議した。
「なんで勝手に決めちゃうんですか? 僕は出たくないです」

「自信をとり戻すにはこういうところで演奏したほうがいいと思って。度胸試しじゃないけど、そんな感じの」
「余計なお世話です」
 ぴしゃり、と言い切る。

 いつもやんわりと気弱な言い方ばかりだったから、詩季は面食らった。
 だが、それだけ彼は嫌がっているということだ。

 詩季はステージを見た。今度は女性の参加者が歌っている。大音量の音楽に負けそうになり、必死に声を張り上げている。
 彼女はどういう気持ちで参加したのだろう。楽しそうだからなのか、優勝したいのか、それとも頼まれて義理で出ているのか。

 彼女が歌い終わったら2組が歌う予定だった。
「なにを歌われますか?」
 係員が来て二人にたずねる。

「エトワ・ド・シエルの『恋』で。カラオケにありますよね?」
「ええ、大丈夫です」
 係員は朗らかに答える。

「僕は参加しませんから」
 彼の言葉に、係員は困惑を浮かべて詩季を見た。

「私が歌うから。……一人でもいいですよね?」
「ええ、もちろんです」
 係員はホッとしたように答え、立ち去った。

「僕は何もしませんよ」
「大丈夫。私が参加するって言っちゃったんだから、責任とらないと」
 詩季はごまかすように笑った。

 なにをやっても失敗だ。
 彼を元気づけるどころか、また傷付けるようなことをしてしまった。

 ならばせめて、へたくそな自分の歌を聞いてあんなのでも人前に出るなら、と自信をもってくれたらな、と思った。歌と楽器演奏の違いはあるけれど。

 歌い終わった女性は、緊張した~、と言いながら安心したように舞台を下りた。ぱちぱちとまばらな拍手が彼女を追い掛けた。
< 19 / 47 >

この作品をシェア

pagetop