星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 彼もまたおいてけぼりだ。
 地上に降りてきてしまい、天に帰れなくなった星。

 その証拠に彼は途方にくれたように天を見上げている。悲し気な横顔は街灯に作られた影でよりいっそうの憂いを帯びて見えた。

 彼は傍らの大きなケースからなにかを取り出した。
 竪琴——ハープだ。

 音楽の教科書でしか見たことのないそれは、だけど教科書のそれよりは小さく、半分ほどだった。

 抱きかかえるように膝の上に乗せ、だらららん、と指を走らせる。
 彼女は音に引き寄せられるように彼に近付いた。

「あなたは星なの? 吟遊詩人なの?」
 たずねると、彼は顔を上げた。

「歌ってよ」
 彼女が言うと、青年は困ったように首をかしげた。

「酔ってらっしゃいますか?」
「それがどうしたの」
 彼女は横柄に答えた。

 青年はおろおろと視線をさまよわせた。
 星のくせに人間みたいな反応をするな、とふやけた頭で思う。

「歌ってってば。元気になれるやつ」
 星が歌ってくれるなら、この気持ちだって少しは浮上するかもしれない。

「それはちょっと……」
「じゃあなんでハープなんて持ってんのよ!」

「それは、その……」
「観客がいないから?」

「休業中なんです」
「なんでよ」

 星は年中無休で光り輝くものだ。休業中なんてありえない。あの雲の向こうで、今も輝き続けているはずなのに。昼間だって見えないだけで輝いているはずなのに。

「なんでって……」
 彼は竪琴をしまい、立ち上がる。

「僕は失礼します」
 彼女はその手をつかんだ。
 彼が戸惑うように彼女を見るが、手の力をゆるめない。

「許さない」
 彼女は言う。

「置いて行くなんて許さない」
 重ねられた言葉に、彼はさらに戸惑いを深くした。
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