星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~【初期版】
涙で腫れた目を化粧でごまかし、詩季は出勤した。
店はもうオープンしている。バックヤードから出た詩季は店を見てため息をついた。
土曜日だから人出は多い。だが、店に立ち寄る女性は少なく、他の店ばかりを見て回っている。
マネキンのボディには昨日のうちに後輩がいまどきの若い子向けの流行の服をおしゃれに着せている。マネキンに目を止める人は何人もいたが、店に入らずに通り過ぎていく。
こんなにおしゃれにできてるのに。
詩季はマネキンをじっと見つめる。
自分なんて、不慣れな男性ものとはいえ、絃斗に無難な服を選ぶことしかできなかった。おしゃれって難しい。
ため息をついて、通路をまたぼんやりと眺める。
新しい服を着た絃斗のうれしそうな顔が思い出された。
ふと、行き交う人波を改めて見つめる。
若い女性より子供を連れて歩くお母さんのほうが多かった。近くのベッドタウンからなにかのついでに来ているのだろう。
そうだ。
詩季はその思い付きに、胸がどきどきした。
今、店員たちは暇そうに服を畳みなおしたり掃除をしたりしている。
どうせ売上は悪いんだし、異動なんだし。挑戦してみてからでも。
「ごめん、ちょっとやってみたいことあるから。変えるね」
マネキンに服を着せた後輩に声をかけて、服を取り返る。
店にある服の中で、シンプルな大人っぽいコーディネートに変えた。かといって淡泊にはならないように、小物でおしゃれ感をアップさせる。
「なにしてるんですか、店長!」
後輩が慌てる。マネキンから脱がされた服を手に抗議する。
「今季のウリはこれですよ、本部からも通達が来てたじゃないですか」
「そうね。でも、しばらくこの路線で行くわ」
「うちはほかにはないデザインがウリなのに……」
後輩は唖然としていた。が、結局は店長である詩季を立てて引いてくれた。
その後、目につく場所にある服も全部入れ替えた。