セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
 そんなある日のこと。

 たまたま私が奥様の手鏡を運んでいると、お嬢様がじっとこちらを見ていることに、気がついた。


「ほら。どうぞ。」


 お嬢様の前に手鏡を置いたのは、ほんの気紛れだったけれど。お嬢様は、すごい勢いで、その手鏡を手にとった。

 そして、じっと、穴があくほどに鏡の中の自分を見つめると。お嬢様は無表情のまま、自分の顔をペタペタと触り、頬や鼻をビヨンと引っ張ったのだ。


「変な顔……。」


 思いがけず人間らしい仕草をするのがおかしくて、笑いを漏らしてしまった――、そのとき。
 お嬢様は、バッと、私を見上げた。


「へん?」

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