セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
※※※※


 さて、文化祭当日も、我がクラスのお化け屋敷では、役割分担がなされている。

 杵築や愛花ちゃんは、ボードを持って校内を回る宣伝係。
 優奈ちゃんは、お化け屋敷の中で上からコンニャクを吊るす係。

 私はといえば。
 真っ暗に遮蔽した教室の、さらに隅の暗い一角で、氷の入ったクーラーボックスを抱きしめ待機していた。


 お化け屋敷の終盤には、一人ずつしか通れない、狭い道がある。
 その壁はマジックミラー仕様になっており、私の側からは、客が通る様子が少しばかり見えるけれども、客側からは何も見えない。

 誰かが私の前の道を通りかかったタイミングで、壁の穴から、勢いよく片腕を出し、お客さんの腕を掴むというのが、私の役割だ。

 体温を感じさせないように、私の手はあらかじめ、クーラーボックスで少し冷やしておくという芸の細かさ。
 暗闇の中でいきなり腕を掴まれたら、相当怖いと思う。

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