セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
――これじゃあ、逃げられない。


 私たちが帰ろうとしたことによって、さっきまでギリギリ残っていた、表面的には友好的な雰囲気さえ、消え去ってしまった。


――でも、今、止まったら、おしまいだ。

 私はなお、「センキュー」「グッバイ」と言いながら、男たちの脇を、全力ですり抜けようとした。


 それを許すまいというように。
 ひときわガタイの良い男が、私の右腕を掴んだ。


「〜〜$#;*0<@#%!」
「百佳ちゃん――っ!!」

 瞳ちゃんの悲鳴と同時に。

 男に腕を引っ張られた私が、床に突き飛ばされて体を打ちつけた、そのとき。


 スローモーションのように、玄関の扉が開くのが見えた。

 息を切らして、戸口に立つ男と、私は目があった。


 三杉だった。
< 393 / 615 >

この作品をシェア

pagetop