セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
――いずれにしても、目下の問題は、離乳食。


 私は、世話役の春名さんを見かける度に、ハイハイをして近付き、身振り手振りで『食べ物ちょうだい』とアピールを続けた。
 春名さんが、台所にいるときは、特に狙い目だと思う。


――今だ!


 春名さんが、ジュースを手にした瞬間。
 私は、大きく両手を振り回し、『そのジュースをちょうだい』とアピールした。
 さらに、ニコニコ笑って「だぁー!」と話しかけ、春名さんの足元に素早く擦り寄った。


 これほど慕われれば、普通なら……という考えは、しかし、甘かったようだ。
 

「――ぐぁっ。」


 春名さんは、足元の私を、勢いよく蹴り飛ばしたのだ。
 
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