セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ～能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない～

　たとえば、ホテルのビュッフェにて。

　杵築くんは黒瀬さんに、山盛りのスイーツをとってきてあげていた。その様子は、さながら、仲の良いカップルのよう。

　見ていた竹内は、「どういうことだ？　まさか、杵築さんにまで呪いを？」と首を傾げていた。


　また、カッパドキアの自由時間には。

　三杉くんが、黒瀬さんのところに行くと言い残し、月乃さんを置いて駆け出した。その様子は、さながら、想い人の救出に向かう物語のワンシーンのよう。

　見ていた竹内は、「どういうことだ？　まさか、三杉にまで呪いを？」と首を傾げていた。


　土産物屋では、黒瀬さんが、友達や生徒会メンバーと仲良く買い物をしている姿も見かけた。
　彼らといると、黒瀬さんの異質感は薄れ、むしろ違和感なく馴染んでいるように見える。



　黒瀬さんを怖れる者は多い。

　でも僕は、普通の女の子だと思っている。そう思っているのは、僕だけではない。

　黒瀬さんと親しく話したことのある人で、黒瀬さんを悪く言う人はいないし。幼稚園から王明に通っている人は、むしろ黒瀬さんを慕っている様子すらある。
　

　黒瀬さんを取り巻く、水面下での様々な噂。

　黒瀬さん本人は、それらに全く気付いていないのだろう、今日もいつもどおりの無表情である。