セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
 春名さんは、広島に行ってから1週間が経っても、戻ってこなかった。 

 お父さんの病気が、思ったのより、悪かったのかもしれない。私は、「こちらは気にせず、ゆっくり休んで」と伝えようと思って、あらかじめ聞いていた電話番号にかけてみた。


 ところが、電話に出た春名さんは。

「やっぱり、退職します。
 もう、そっちには戻りません。」 

 とそっけなく言った。


――えええ!?


「なななんで、いきなり? 別にすぐ戻らなくても良いんだし、休みが長期になりそうなら、介護休暇ということにすれば……。」

「いえ、退職で。」
「なんで~~!?」


「我儘なお嬢様のお世話に疲れました。それでは。」

 春名さんは冷たく言うと、一方的に電話を切ってしまった。


 がーん……


 ちょっと、かつてないほどの、ショックである。今のは本当に、春名さんだったのだろうか。

 そりゃあ、小さい頃には、春名さんから嫌われてるように感じることもあった。
 でも、春名さんとは、両親よりも長く一緒にいたのだし、いつの間にか、母のようにも、姉のようにも思っていた。

 もやは家族も同然だったのに……。

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