セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
「当事者の承諾のない、不意打ちの婚約発表など、あり得ない。紗和子さんにも失礼だろう。」

「娘は、承諾している!」
「俺が、承諾していない。その状態で、娘が幸せになれると思うのか。」

「それはお前の、心がけ次第だ。」
「心がけ?」


「――それは、無理だ。俺の気持ちは、変わらないと、言っている。」

 杵築は、白鴎さんに対峙する位置に立ち止まると、正面から白鴎さんを見据えた。


「小僧。娘に、何の不満が。」
「不満の有無の問題ではない。」

 杵築は、顔を真っ赤にした白鴎さんから目をそらさずに。
 スッと回り込むように歩きながら、私たちに背を向けた。


「分かっていることだからだ。」
「分かっている?」
「ああ。今までも、これからも。」


「俺に気後れせず、隣に立てる女は。
 ――この世でコイツだけだ。」

 杵築が片手で、示したのは。


「!?」
「!?」

――なぜか、私だった。

< 570 / 615 >

この作品をシェア

pagetop