セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
※※※※


 私は、『お嬢さま』『お坊ちゃん』という生き物が大嫌いだ。
 
 たまたま金持ちの家に生まれただけで、ぬくぬく育ち、偉そうに振る舞うガキンチョに、良い感情は抱けない。
 これまでの勤め先では、極力、関わらないように努めてきた。


――けれど、黒瀬家のお嬢様は、何かが変だ。


 赤ん坊なのに、全く泣かない、笑わない。
 無表情のまま、高速ハイハイで、私の方に近づいてくる赤ん坊。


 普通に 怖 か っ た。


 あるときなんて。
 私がキッチンでジュースを手にとると。

 お嬢様はいきなり、カッと目を見開いた。

 さらに、何かが乗り移ったかのように腕を振り回して、奇声をあげたかと思うと――。
 バッと、私の足にしがみついてきた。

 
――うわああ!


 私は思わず、お嬢様を蹴飛ばした。


 けれど、それでもなお、この赤ん坊――お嬢様は泣くこともしなかった。表情ひとつ、変えることがない。
 その様はまるで、最近見たホラー映画に出てきた、悪魔憑きの赤ん坊のようだ。

 

 お嬢様を蹴りつけて以来。

 お嬢様は私がどこにいても、何をしていても。高速ハイハイでピタッと後を付いて回るようになった。
 あたかも、復讐する機会を狙っているかのように。

 無視をしても、無視をしても。
 能面のような顔で、じっと、私の顔を見つめてくる。
 ただじっと、目を見開いて……。



――怖すぎるわ!



 私は、近日中の辞職を考えた。
< 7 / 615 >

この作品をシェア

pagetop