セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
 私はちょっと、同意しかねた。

 手元にあるリボンを、クルクルと指に巻きつけながら、思い出すのは入学式の日のことだ。

 リボンを拾ってくれた彼女の声は、とても優しかった。表情がなくて怖いというよりも、美しく感じられた。


 私は、人に嫌われるのが怖くて。いつも周囲に同調して、ヘラヘラしているから。

 黒瀬さんみたいに、しっかり自分を持っている人は、憧れちゃうけどなあ。超お嬢様なのに、全然、高飛車でも嫌味でもなかったし。


――でも少数意見みたいだから、言わないでおこう。


 今も、窓の外、遠くを眺めるような眼差しの黒瀬さんを、私はやはり美しいと感じた。
 容姿よりも、その纏う雰囲気が、独特なのだ。仕返しなどを企むような人には、とても見えない。

 そういうことをコソコソやりがちなのは、むしろ、私のように周囲をよく意識しているタイプの人間の方だと思う。
 黒瀬さんの隠れファンが、勝手に制裁を行ったということなら、あり得るかもしれないなあ……。


 私はふと、私よりも少し前の席で、私と同じように黒瀬さんをよく見ている人がいるのに、気が付いた。従弟が心酔しているその人――、羽村さんだ。


――黒い力。


 まさかね――。私は、脳裏に浮かんだあり得ない想像を、すぐに打ち消した。
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