婚約破棄、のち、幸せ
 一般的に、女性の稼ぎなどたかが知れているだろうし、共働きだったとすれば、家のことはおざなりだっただろう。子ども達も、真っ当に育ってはいないだろう。不幸な男だ――と下に見る気持ちが続いたのは、数日だけであった。


 隣室には、頻繁に、面会客がやってくるのだ。

 自分のもとに、家族が面会に来たのはいつだったか、覚えてもいない。それに対し、隣室の男のところへは、1か月とおくことなく面会客が訪れる。


 それは規約に反することではなく、悪いことというわけではない。
 しかし、何となく不快に感じて、男が、隣室の声をかき消すようにテレビの音を大きくしたとき――、隣室から小さく、「ハッピーバースデイ」の合唱が聞こえてきた。


 幼い子どもの声は、特に高く響いている。
 それを聞いて、男は、自分自身も先週誕生日であったことを思い出した。


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