お前の全てを奪いたい【完】
「……ッん、……はぁ……、っ」

 一度触れてしまえば、こうして止められなくなってしまう事を分かっていた。

 何度となく唇を塞ぎ、環奈が息継ぎをする度、甘い吐息が漏れていく。

 それだけでも俺を煽るには充分なのに、熱を帯びた瞳で見てくる環奈に、身体がゾクリと震え出す。

(もっと欲しい……キスだけじゃ、足りねぇ……)

 これまで様々な女を抱いてきたし、キスだって数え切れない程してきたけど、こんなにも相手を求めるなんて、環奈が初めてだった。

「……ばん、り……、さんッ……もう、……」

 こんな、唇を重ね合わせるだけのキスでどうにかなりそうなのに、俺はその先を求めたくなる。

 けど、それをするのは今じゃない。

 環奈の心が揺れているのは分かる。

 もっと深く繋がるその時は、俺だけを見て欲しい。

 他の男なんて気にならないくらい、俺に夢中にさせたい。

 唇が離れ、乱れた息を整え直している環奈。

 ここで止めても良かったけど、もう少しだけ触れていたかった俺は――


「環奈、俺だけを見ろよ。俺は絶対裏切らない。お前を悲しませるような事は、しねぇから」

 彼女の両頬に手を置くと顔を包み込むようにもう一度唇を奪う。

「――っん……はぁ……ッんん!?」

 今度はただ唇を重ね合わせるだけじゃない。俺の舌を環奈の口内に割り入れて、彼女の舌を絡めとる。

 環奈はされるがまま、徐々に身体の力が抜けていき、

「……ぁっ!?」

 立っているのがやっとだったのか、膝から崩れ落ちそうになるのを支えたところで、キスをやめた。

「……はぁ、……っはぁ……」
「悪い、強引過ぎたよな……」
「…………、万里さん……、私……」
「今は、何も言うな。俺は信じてる。必ず、俺の元に来てくれるって」
「…………っ」

 そして、何か言いたげな環奈の口を指で塞いだ俺は、それ以上語る事をしなかった。
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