お前の全てを奪いたい【完】
THIRD
 俺が環奈に想いを伝えた翌日、いつも通り勤務を終えてHEAVENへ向かうと、店に環奈の姿は無かった。

「カナは?」
「実は、今日は出勤して来なかったんです……」
「休んでる? 連絡は?」
「それが、無かったんで店長が掛けたんですけど、電話にも出なくて……」
「電話にも出ない?」

 ボーイの一人から環奈が出勤していない事を告げられた俺は、何だか少し嫌な予感がしていた。

「とりあえず、明日まで様子を見ようという事になったんで、今日はまあ休みという事になったんです」
「……そうか」

 しかし環奈は、翌日になっても姿を見せる事はなく、連絡も取れない状況が続いていた。

 ただ、こういう世界は稀にこう言った事案もある。

 そして、大半がそのままフェイドアウトして辞めていく。

 特に思い入れのないキャストならば、そんなモンだろうと気にも止めないかもしれねぇが、環奈となれば話は別だ。

 俺もあれから環奈に電話を掛けたが、呼び出し音は鳴るけど電話には誰も出ない状態が続いていた。


「明石さん、環奈とはまだ連絡付かないのかよ!?」
「ああ」
「流石に三日も無断欠勤はおかしいだろ? 誰の電話にも出ねぇし……」
「そうだな。それで、履歴書に記載されていた住所にも行ってみたんだが、留守のようで出ないんだよ……」

 環奈が無断欠勤をして三日、明石さんが環奈の住むアパートを訪ねたらしいが、応答は無かったという。

(環奈……どこ行っちまったんだよ……)

 俺の中で考えられる事は三つある。

 一つ目は、俺が想いを伝えた事が原因で、俺から離れる為に姿を消した事。

 二つ目は、環奈の身に何かあったという事。

 俺としては前者でない事を願いたいが、後者ならば環奈は事件に巻き込まれた事になる。

 そして三つ目は、男絡みで何かあったという事。

 この場合はあのクズ野郎が大いに関係しているはずで、俺としては三つ目が一番可能性があると考えている。

 店の近くのスタジオにはここ数日アイツが出入りしている様子は無いから、恐らく別のスタジオに居るんだろう。

 アイツは暴力を振るうし、金の為なら女を売るクズだ。

 思い通りにならなかった事に腹を立てて、環奈をどこかに監禁している可能性も無くは無いだろうと思うと気が気じゃ無かった。
< 30 / 74 >

この作品をシェア

pagetop