お前の全てを奪いたい【完】
 車を走らせる事、約三十分。辿り着いた先は海岸だ。

 秋も終わりに近付いている事もあって外に出るとかなり寒いが、潮風を浴びれば気分転換にはなるだろうとやって来た。

「少し、外に出ようぜ」
「はい」
「寒いから、これ、羽織っとけよ」
「でも、それじゃあ万里さんが寒いですよ?」
「俺は平気だから、気にすんな。行くぞ」

 俺は自分が着るはずのジャケットを環奈に手渡すと、車を降りて砂浜へと向かい、二人しかいない海岸で夜の海を眺めた。

「綺麗……」

 そう呟く環奈の横顔を間近で見た俺は、水面に映し出される星空よりも、ずっと環奈の方が綺麗だと思った。

 上着を羽織っていても寒いのか、環奈は少し身体を震わせる。

「寒いか?」
「……少し、だけ」
「それじゃあ、こうしたら暖かいだろ?」

 薄着の俺も少し寒いし、環奈も寒い。

 それならばと俺は彼女を後ろから包み込むように抱き締めた。

「……暖かいな」
「……本当に、暖かいです」
「……なあ、環奈」
「はい?」
「……あの時、喜多見に言ったことは、本当に、本心だったのか?」
「……………………」

 これは聞くべきか迷ったけど、やっぱり、知りたかった。

 俺が思うに、半分は本心だったかもしれないが、まだ心の片隅でアイツを想ってるのではないかという事を。

 どんなに酷い目に遭わされても好きだった相手だ。心優しい環奈が、完全に嫌いになんてなれないに決まってる。

「……確かに、未練が全くないって言うのは、ごめんなさい、嘘です。あんな人でも、好きだった人だから、すぐに全てを忘れる事が……できません」
「そうか……」
「…………だけど」
「ん?」
「今私が大切だと思う人は…………一人だけです」
「……なぁ、それって、俺の事?」
「そうです。私が今、一番大切だと思っているのは、万里さん、貴方だけ――」

 環奈が言い終えるのを待ち切れなかった俺は、彼女を俺の方へ向け直すとすぐに顎を掬い上げて、冷えた唇を重ね合わせた。
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