お前の全てを奪いたい【完】
 そして、店を辞めると正式に決めてから約二週間後、俺のホスト引退と題されたパーティーが開かれ、特に関わりが深かったHEAVENのキャスト数人や俺の常連客たちが集まり、俺がreposでホストとして過ごす最後の夜が幕を開けた。

 明石さんの乾杯の音頭から始まり、皆酒や食べ物を沢山頼み、俺との事や店での出来事を振り返ってくれる。

 大体酒が好きな奴らばかりとあって、開始一時間も経つと既に何人か酔っ払う奴まで出ていて騒がしい。

 そんな時、

「芹」
「あの、話、出来るかな?」

 パーティーには似つかわしくない表情をした二人が俺に声を掛けてきた。

「真美、花蓮……。ああ、一人ずつの方が、いいよな?」

 俺の言葉に二人が頷き、

「分かった、それじゃあまずは花蓮、あっちで話そう」
「……うん」

 礼さんに目配せをした俺は皆から離れ、様子が見えにくい席に移動する事にした。

「……芹、本当に、本当にごめんなさい……」

 席に着くなり座ること無く頭を下げる花蓮。

「いいから、とりあえず頭上げて座れよ」

 そんな彼女に頭を上げて座るよう促すと、戸惑いながらも花蓮は椅子に座った。

「……傷、もう、大丈夫?」
「ああ」
「……私、あの日からずっと、後悔してた……なんて事をしたんだろうって……怖くて、どうすればいいのか分からなくて、警察に行かなきゃって思っても、動けなくて……本当に、本当に……ごめんなさい……」
「もういいって。元はと言えば俺が悪かったんだよ。花蓮にもずっと気を持たせるような事ばっかり言ってさ、俺の方こそ、本当にごめんな」
「そんな……、芹は何も悪くない……、だってここはホストクラブだもの。私みたいな客に本気にならない事くらい、分かってたのに……勝手に期待して、裏切られたって思って、あんな事……っ」

 確かに、ホストクラブは客を楽しませ、夢を見せる場所だ。

 本気じゃない事くらい、誰でも分かる。

 だけど俺は、金と引き換えに女と寝た。

 良い事ばかり言いまくって、その気にさせてた。

 本気になられても、仕方なかった。

 全ては俺のやり方に問題があったんだ。

 それに、花蓮は扱い易いと勝手に思い込んで、都合のいいように解釈して相手をしてた。

 花蓮からしたら、本気だったかもしれないのに。

「もういい、お互い、あの日の事は忘れよう。花蓮はここに来た当初より、すげー魅力的になったよ。俺なんかには勿体ないくらいに良い女になった。男慣れもしたろ? これからは自信を持って出逢いを恐れることなく、頑張れよ。な?」
「……芹……。うん、ありがとう、本当にありがとう。私、芹とここで過ごした時間、忘れないから」
「ああ」
「芹、幸せになってね!」
「ありがとう、花蓮もな」
「うん。それじゃあ、さよなら」

 そう言って薄ら涙を浮かべながら微笑み席を立った花蓮は、振り返る事無くそのまま店を出て行った。
< 58 / 74 >

この作品をシェア

pagetop