Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「…………ほんと?」

そこには隠し切れない喜びが滲んでいて……

香坂さんもそれに気づいたんだろう。
眼鏡のブリッジを細い指で押し上げ、困った様に、でもどこか嬉しそうに微笑んだ。

「当たり前だろう? 疑われるなんてショックだよ。きっと僕の愛し方が足りないんだな」

甘くささやくと、彼女の頬を両手で挟むようにしてその瞳を覗き込んだ。
知依ちゃんは最初こそ微かに抵抗を見せていたけれど、そのうち脱力して香坂さんをうっとりと見上げる。

「好きだよ、知依。愛してる。君以外の女性なんて、興味ない」

「嬉しい、明良さ……んっ」

ひぇっ、き、キスが始まってしまった!
全然周りが目に入ってないな、この2人!

濃厚に響くいろんな音に気まずい視線を交わした私と学くんは、どちらからともなくそっと反対方向へと歩き出した。

下が絨毯で助かった。
足音がしないのを幸い、そそくさとその場を離れる。

「……あれって、知依ちゃん、だっけ。香や茉莉ちゃんと仲よかった子」
「うん、一緒にいたのは彼女の恋人」
「すごいなぁ、完全に2人の世界だったね。なんだか映画のワンシーンでも見せられた気がする」
「ふふ、ほんと」

笑って返しながら……あれ、と考えた。

そう言えば私、クロードさんから言われたことあるっけ。
好きとか、愛してるとか、そういう類の……

出会いからプロポーズ、年末年始を経て現在まで、ざっと記憶を探っていくうち、次第に指先から冷えていくような感覚を覚えた。

言われて、ない。一度も。

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