Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「兄弟なんて、軽々しく一括りにしないでほしいな。僕はね、あいつとは全く違う人間なんだよ。総帥の椅子に相応しい由緒正しい血を引いた、唯一の人間なんだから」
端正な顔が嘲りを含んで歪む。
「今の総帥、フレデリック・リーだって、言ってみれば泥棒だからな? 先代が急に亡くなって、そのどさくさに紛れて長兄であるお父様から後継者の椅子を奪った泥棒。お父様は失意のうちに事故で……まぁそれだって、フレデリックが仕組んだ陰謀だと僕は思ってるがね」
香坂は私と知依ちゃんを睥睨し、「つ、ま、り」と芝居がかった仕草で拳銃を左右に振った。
「いいか? 先代とお父様が亡くなった後は、僕が、僕こそが、僕だけが、誰より総帥の椅子に相応しい後継者ってことさ!」
「そんな……ふざけないでよっ……あなたたちの事情なんて知らないっ! まさか、隠し子の居場所を教えなかったからっていうだけでお父さんを殺したの? 何の関係もない、うちのお父さんを!」
怒りの余り上手く回らない口で、それでも必死で叫ぶが、彼の感情を動かすことはできなかったみたいだ。
軽く首をひねった香坂は、「しょうがないだろう? 隠す方が悪い」と嘯く。
「最終手段だったんだけどね、塾長に直接聞くのは。でもなかなか目指す相手が見つからなくて、他に方法がなかった。だからあの夜、僕は塾長に自分の素性も含めて、全部説明してやったんだ。そして僕が正当な地位を回復した暁には、こんなちっぽけな塾なんかじゃなくシンガポールに大学を建てて、学長にしてやろうとまで申し出た。なのに――」
あぁお父さんは断わったんだ。
クロードさんの行方を、教えなかったんだ。
不機嫌そうな表情から、すぐにそれが読み取れた。
「『彼の居場所は誰にも教えない。君にも、リーズグループにも。だから、その子は一生リーズグループとは関わらずに生きていく。それでいいじゃないか』、と言われたよ」
一旦言葉を切った香坂は、「冗談じゃない!」と初めて余裕ぶった仮面を脱いで感情を露わにした。
「あの女の息子だぞ? 身を引くと言いながらエコー写真なんか送りつけてくるような、狡猾なあの女の! どうせいずれ時期を見て父の子だと、名乗り出てくるに決まってる。絶対に排除しなければならないんだと、どれほど言ってもお前の父親は納得しなかった。挙句の果てに『総帥になるだけが人生じゃない』なんて、この僕に説教までしてきてさ。だから、……まぁ、カッとしてしまってちょっと押したら勝手にバランスを崩して転んで。打ち所が悪かったのか動かなくなって」
ちょっと押したら、勝手に転んだ?
不可抗力だ、とでも言わんばかりに話す目の前の男にこみ上げる怒りは収まらず、爪の跡がつくくらいきつく、拳を握りしめなきゃならなかった。