人生のどん底から、絶頂へ。
放課後、私はドキドキしながら図書室に向かった。
図書室に入った瞬間、白翔先輩を見つけた。
眼鏡をかけて勉強してる白翔先輩。
普段は眼鏡かけてないのに。
ドキドキが止まらない。

白翔先輩のことを眺めていると、私に気づいた白翔先輩が手招きをした。
早歩きで白翔先輩のところへ行く。
「ここ座って。」
冷たい声。
昨日の夕方とも、今日の朝とも違う声。嫌われちゃったのかな。
不安に思って座れないでいると、先輩が
「あ、結菜のこと好きだかね。でも、勉強する時は真面目だから。ごめんな」と言った。
正直、ギャップに胸キュンした。

「わかりました、。」
そう言って私が座ると、白翔先輩は開いていた教科書を閉じて私を見た。
「得意教科と苦手教科なに」
「得意なのは英語で、苦手なのは数学です。」
そう答えると、白翔先輩は頷いた。
「じゃ、まず数学からな」

苦手な数学。先輩からしたら、中2の内容なんて簡単すぎるかもしれないけど、私にとっては難しすぎる。

「連立方程式、一次関数、証明。くらいはもう習ったよな?この中だったら、どれが得意?」

中学に入って今まで、難しかった内容。
この中に得意な物なんてない。
でも証明はテンプレがあるし、意外と簡単だった記憶がある。
「証明、、、です。」
私がそう言うと、先輩は「まず証明からやろ」
と、言ってくれた。
証明ならできるかも。

「このプリントやってみて」
私の前に出されたのは証明の問題が並んだ紙。解き始めてみると、一問を除いて全部答えることができた。
白翔先輩の方を見ると、先輩はiPadに何か打ち込んでいる様子だった。
「あ、終わった? ちょーだい」
紙を差し出すと、先輩は丸付けをしてくれた。

「この問題、解いてないけど。難しかった?」
「はい。分からなかった、です。」

私が正直に答えると、白翔先輩は丁寧に教えてくれた。
「まず、三角形の合同条件3つ言える?」
「はい、えっと、3つの辺がそれぞれ等しくて、あと、2つの辺とその間の角。あと、1つの辺とその両端の角?が等しい? 」
「うん。そーだったよね。じゃあ、それを言うためにこの図形だったらどこの部分を使う?」
「ここ、ですか?」
「そう。だから、それをまず書いて?」

わかりやすい。
学校の先生よりも、塾の先生よりも、誰よりもわかりやすい説明だった。

「じゃあ次に、対応する何が等しかった? 」
「辺と角? 」
「だよな? だからここには何を書くの? 」
「あっ、わかりました! こうですか? 」
「正解。偉いな」

『偉いな』
そう言って先輩は頭をよしよししてくれた。
もう、やっぱり好きだ。
でも、勉強は恋愛目的じゃない。

「結菜は暗記が得意なんだな、
じゃあ次、これ解いて」
次に渡されたプリントも数学の問題だった。
数学はもうやりたくない、そう思ってしまったが、そんなこと言ってる場合じゃない。

それから三時間、図書室で数学の勉強をしていた。白翔先輩の説明は、とてもわかりやすくて数学への苦手意識が少し消えた。

「よし、苦手教科なのによく頑張ったな。明日は英語やるから。」

頭ポンポンと同時に「明日は英語やるから」
そう言われ、体が震えた。
明日もあるの?というか、この先ずっとやる感じなの?
明日も白翔先輩に会える。
その事実で私は安心感に包まれた。

「あ、これ連絡先」
「え!あ、ありがとうございます」
「分からないところとかあったら、いつでも連絡して。あと、普通に勉強以外でも相談とか乗るからね」
白翔先輩の連絡先が書かれた紙。
渡された時、どうしようもなく嬉しかった。
でも、恋愛目的じゃない。勉強のため。
今の私に恋愛してる余裕はない。

「わかりました!ありがとうございます!」
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