人生のどん底から、絶頂へ。
家に帰ると、ため息が漏れた。
好きになっちゃいけない。勉強を本気で頑張りたいから。
でも、止められない好きな気持ち。

お風呂から上がって、明日の学校の準備をしていると、バックから一枚の紙が出てきた。
白翔先輩の連絡先だ。


紙を見つけた私はスマートフォンを取り出し、メッセージアプリで白翔先輩を追加した。
恋愛目的ではなく、勉強を手伝ってもらうために。

一時間後、白翔先輩から連絡が来た。
「よろしく」とか、そういう内容なんだろうな。と分かっているのに、なぜか胸がドキドキする。
画面をタップすると、白翔先輩からのメッセージが表示された。

『よろしく』
『あ、今日の10時頃暇?』

心臓がドクンと跳ねた。
気づいた時には返信していた。

『はい。10時頃、全然暇です!』

『じゃ、電話かけるから』

『わかりました』

この少ない会話でも、私は幸せだった。
このあと、白翔先輩と電話できる。
好きな人と、夜に電話。
幸せすぎる。

プルルルプルルル

スマホが震えてることに気づいて、深呼吸をしてから電話に出る。

『もしもーし。結菜、急にごめん、今からビデオ通話にするからスピーカーオンにして画面みてて。あ、結菜は画面オフしてていいからね』

『あ、はい!わかりました』

スピーカーをオンにすると、画面が切り替わった。白翔先輩は映っていなくて、iPadが映っていた。

『これ、見える? 数学の応用問題作ったんだけど、今から解いてほしい。』

電話でも勉強!?
びっくりして固まってしまった。
白翔先輩は勉強が苦じゃないんだろうな。
そう思った。

『わかりました。』

『うん、ゆっくりでいいからね』

問題は、連立方程式の文章題だった。
私には難しくて、五分間真剣に考えても、全然問題が解けなかった。

『あの、白翔先輩。分からないです。』

『ん、どの辺りが分からない?』

『全部、です。』

恥ずかしかった。怖かった。
『わからない』
この言葉を言ったら、嫌われてしまうかも。
見捨てられてしまうかも。
それが、どうしようもなく怖かった。
不安で頭の中がいっぱいになっている時、白翔先輩の優しい声が聞こえた。

『この問題難しかったね。ちゃんとわかるまで説明するから、大丈夫だよ。』

"大丈夫だよ"
その言葉に安心して、少し涙が溢れた。
泣いている声が先輩にも聞こえたのか、先輩の優しい声が聞こえてきた。

『分からないって悪いことでもなんでもないよ。安心して。』

この安心感。やっぱり私には白翔先輩しかいない。
< 9 / 18 >

この作品をシェア

pagetop