三十路アイドルはじめます

35.じゃあ、俺に黙って勝手に入籍しないって約束してね。

「待って! そんなこと考えてないし。風邪がうつるから遠くに行ってくれー」

 私は朦朧とする意識の中で何とか言葉を絞り出したところで、意識が途切れた。

 再び目が覚めると熱は下がったようですっきりしていた。
 本当に一時的にストレス、で自律神経が乱れて発熱しただけのようだ。

 自分のメンタルの弱さには本当にうんざりする。
 私は私を抱きしめるようにして、眠っている林太郎の腕を外した。
(良かったー! 服着てる)

 時計を見ると朝の5時のようだった。
(よし、彼が寝ている今のうちに朝食を作ろう)
 居候の身で家事を全くしていない現状に私は引け目を感じていた。

 キッチンに行き、冷蔵庫を開けると常備野菜も揃っているし綺麗に整頓してある。
(林太郎って、実はかなり几帳面だよね)

 私はとりあえず、オムレツとコンソメスープとサラダを作った。
(よし、できた! 林太郎みたいなおしゃれ料理はそのうち覚えよう⋯⋯)

「きらり! 俺がオムレツに字を書いても良い」
 突然、林太郎がバックハグしてきて、心臓が止まりそうになる。

「はい、書けた」
 オムレツを見ると「きらり大好き」と書いてある。

「流石に混乱してきた。林太郎は、私のことは好きじゃないんじゃないの?」
 記憶が確かなら、彼は泣く女は嫌いだと言って告白を撤回してきたはずだ。

「きらりが俺に友達でいて欲しいそうだったから、自分の気持ちに蓋をしたんだ。でも、やっぱり我慢できないから、自分の気持ちに正直になることにした」

 彼の言う我慢したと言うのは、ほんの1日くらいのことだ。

 しかし、私からすれば1日で好きと言われたり苦手と言われたりして混乱してしまう。
(どっちの気持ちが本当か分からなくなるよ)

「私は林太郎のこと好きか分からない⋯⋯」
 私は本音を話すことにした。

 
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