起きられないモーニングコール、眠れない夜カフェ。

良い匂いのする理由

 私はいつものように、まっくらな闇の中で目が覚めた。貧血気味だから朝は弱くて、いつも寝起きは良くない。

 あ……そうだ。日曜日だ。

 今日って、朝ご飯用のパンを買って来ていたっけ?

 なんだか、頭の中にモヤがかかり昨日の自分が思い出せない。

 ゆっくりと棺桶の蓋を押し上げて開いた時に「おはよう。まゆちゃん」と、何度も目覚まし時計が連呼していて、そんな中で驚くくらいに鮮明に、私は冬馬さんのことを思い出した。

「あ……冬馬さん。ひどい。好きだからさよならって、何なの……こっちの希望だって、少しは聞いてよね」

 私の個人的な希望だけど、恋人が吸血鬼でも大丈夫。

 なるべく生活スタイルは彼に合わせるし、血は食べ付けないから飲めないかもしれないけど、棺桶で眠りに付くのは、今でも既に慣れてしまっている。

 告白した後に記憶を綺麗に消されていた私がスマホを確認すると、冬馬さんの連絡先ややりとりの履歴、あのカフェで撮影された写真なんかも、全部消されていた。

 きっと、吸血鬼の彼から言われて私が自分で消した。
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