起きられないモーニングコール、眠れない夜カフェ。
 だけど、冬馬さんは「俺の声も全部消して」とは私には言っていなかったのかもしれない。こっそり録音された目覚まし時計に自分の声が録音されているなんて、普通なら思わないよね。

 あれは……私が見た、都合の良い夢じゃない。冬馬さんへの恋から、まだ覚めていない。

 私はカレンダーで休日であることを再確認すると、精一杯のお洒落とメイクをして部屋を出た。

「いらっしゃいませ。今日は店内で、食べられますか?」

 冬馬さんは、いつも通り店員の笑顔だった。ひどい。ものの見事な他人の振り。

「あのっ……私、冬馬さんと生きることにしました。これからも一緒に居たいです!」

 その時に冬馬さんはひどく驚いた顔になった後、周囲の目を気にしつつ、私の腕を引いてバックヤードにまで連れて来た。

 あれは、他の店員さんもみんな聞いていた。これだとなかった事にするには手間がかかるだろうと思った。

 少しずるかったかもしれないと思い、何も言えない私をまじまじと見つめた後で、冬馬さんは、はあっと大きくため息をついた。

「……嘘だろ。俺が消した、記憶が戻ったのか……まゆちゃん、後悔するぞ」

 脅すような言葉を使われても、別にここで引いたりしない。

 覚悟はもう、決めてきた。
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