月ノ蝶、赤縄を結ぶ






 次の日、私は朝から日暮千歳が用意したワンピースに着替えさせられ車に乗せられた。

 このとき念の為婚約指輪を外しておいた。

 昨日日暮千歳がこれを見る目が嫌に光ってたからだ。

 強制的に外されてどこかに捨てられたら一溜りもない。

 今はハンカチに包んでポケットに入れている。


 黒くて長い車に揺られること数時間、ここら一帯で一番広い敷地を持つ時峯家本邸に到着した。

 時峯家本邸は以前暮らしていた月詠の家よりも遥かに大きい日本家屋だった。建物が幾つもあり、地図がないと迷子になりそうだ。

 これでは途中で脱出するのは不可能。

 まぁそれは元々捨て身の策だったからいいけどね。



「ご無沙汰しております。時峯藤治様」



 人が50人以上入りそうな大広間に入ったところで、日暮千歳が恭しく頭を下げた。

 私もそれに倣い一礼する。



「初めまして」



 頭を上げると、白髪に所々紫がかった黒が散ったお爺さんが目に入った。
< 232 / 278 >

この作品をシェア

pagetop