月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 何はともあれ隙をつく絶好のチャンスが訪れた。

 紅くんがすぐそこにいる。

 私を助けに来てくれた。たったそれだけで勇気が湧いてくる。



「もし紅くんとの結婚を妨害するなら──今、ここで死にます」




 食事のときにくすねておいたテーブルナイフをポケットから取り出し、自身の首を当てた。



「なっ、馬鹿なことはよさんか!」

「来ないで!!!」



 声を張り上げると全員の動きがピタリと止まった。



「私は本気です。紅くんと一緒にいられないなら、ここで終わる方がずっとマシです」



 もちろんここで死ぬつもりはないし、テーブルナイフで致命傷を作れるとも思わない。

 それを分かっていながら他の人が動かないのは、私の身体が傷つくことを恐れているから。

 時峯藤治は孫を傷つけたくない一心で。
 日暮組の人間は時峯藤治の不況を買いたくなくて。
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