月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 そんなことを考えながらとぼとぼと下校していた私の前を、突然男の人が飛びながら横切った。そしてそのまま壁に激突した。



「ぐぇっ」



 潰されたカエルのようなうめき声を出したあと、その場に倒れ込んだ。

 異様な光景を前に、数歩後ずさった。

 だって人がいきなり飛んできてその場にバタンキューしたのは初めて見たんだから仕方ない。

 というかこういう場面に遭遇したことある人の方が少数派だと思う。

 警察を呼んだ方がいいのか、それとも救急車か。

 幼いなりに色々考えていると、後ろからローファーが地面を擦る音が聞こえた。



「ださ。そんなにすぐ伸びるなら喧嘩売らなきゃいいのに」



 その声の主を視界にとらえた瞬間、地面に倒れている人のことなんか頭からすり抜けた。



「紅くん!」



 間違いない。

 絵本から抜け出した王子様のような綺麗な顔を私が見間違えるわけがない。

 出会った日のように脚にギューッと抱きつくと、紅くんも私の存在に気づいた。
< 6 / 278 >

この作品をシェア

pagetop