好きになってはいけない
 鳥が去って、再び目を開けると、もう水面に彼の姿はなかった。

 頬に手を当てる。

 水面の中の自分が、対照の動きをした。

 私は噴水から離れた。

 はだけてしまったショールをかぶり直し、来た道を引き返す。

 靴の音と風の音だけが、冷たい空気の中に響いた。

 ベランダの前で、思いの外高さのある柵にショールの先を引っ掛ける。

 それに掴まって上に登った。

 後ろ手にカーテンを閉め、ショールをソファに放る。

 ベッドに身体を投げ出し、くるりとうつ伏せになった。明かりを消し、目を瞑ってみる。

 眠れないから外に出たはずなのに、部屋を出る前よりも目が冴えていた。



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