ホウセンカ
君に捧げるカランコエ
 父親に会ってほしいと言った時の愛茉の表情は、やけに暗かった。母親のことで話があるらしく、ひとりでそれを聞くのが怖いと言う。

 付き合い始めてから、愛茉は少しずつ自分のことを話すようになってきた。ただ父親のことはよく話題に出るものの、母親は一度もない。あえて避けているというよりも、そもそも存在しないかのような口ぶりだった。

 父親に会うのは久しぶりだと言って真剣な顔で髪をセットしている姿を見ると、本当に大好きなんだなと感じる。母親がいない分、愛情が一心に向いているのかもしれない。

 普段であれば着ないような、落ち着いた雰囲気の服。それでもオレがプレゼントしたネックレスはしっかりつけてくれていて、愛茉のこういうところが、たまらなく可愛いかった。

「さっきの愛茉の様子、桔平君はどう思った?」

 母親の死を聞かされても、愛茉の表情はさほど変わらなかった。逆にそれが気になったらしく、愛茉が席を立ったタイミングで、お父さんがオレに尋ねる。

 娘との関わり方には、いろいろと気を揉んできたのだろう。特に愛茉は本心を語ることが少ないから、なおさら心配になるはずだ。

「……長年蓋をしたままだと固くなって、いきなり開けるのは難しいですからね。愛茉自身も分かってないんじゃないですか。母親に対する気持ちも、自分が本当はどうしたいのかも」

 自分が、愛茉のすべてを理解しているとは思っていない。ただ感じたままのことを言った。
 
「そうか……」

 お父さんは独り言のように呟いて、グラスを傾ける。その表情からは忸怩たる思いが垣間見えた。
 
「あの子がいつも他人の顔色を窺って自分を出せないのは、僕たちのせいだと思っているんだよ。子供の頃から、寂しい思いばかりさせてしまったから。いつの間にか、感情に蓋をする癖がついてしまったんだろうね」
「それを無理にこじ開ける必要はないと思います。時期もあるだろうし。その時に、ちゃんと寄り添ってあげることが大事かなって」
「桔平君は大人というか、愛茉のことをよく見ているんだね」
「そうですね。すげぇ大好きなんで」

 オレの言葉に、お父さんは目を細めた。
 深い愛情を持っているが故に、相手の気持ちを慮って本音の会話ができない。そういうところは、親子でよく似ている。

「すまないね。家族の話なのに、巻き込んでしまって。ただ大切な話だと分かっていても、愛茉は君を連れてきた。だから僕も君を信頼して話をしたんだよ。重荷を背負わせてしまったかもしれないけど」
「荷物なら、いくらでも持ちます。それで愛茉が楽になるのであれば」

 お父さんも愛茉も、抱えているものが重すぎる。オレには、そんな風に見えた。
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