ホウセンカ
モンテスラに願いをこめて
 早いもので、上京してきてから丸1年が経った。

 桔平くんとの同棲生活も、もう4ヶ月。ひそかに心配していた金銭感覚のズレも特になく、とても円満に過ごしている。

 実は同棲をはじめる時、お父さんからの仕送りはストップしてもらった。桔平くんの収入と私のバイト代だけで、ちゃんとやりくりしていくって約束したから。

「僕も、もう子離れの時期なんだなぁ」

 少し寂しそうにしながらも、お父さんは感慨深げにそう言っていた。

 お父さんにも話していた通り桔平くんの収入はかなりのもので、学生の2人暮らしには十分すぎるほど。貯蓄額にいたっては、桁が間違っていない?ってぐらいだった。使い切れないほどあるって、前に言ってたもんね。

 桔平くんがお金を使うのは、画材と本と洋服ぐらい。あとは、たまにひとりでクラシックのコンサートとか美術館へ行っている。それ以外は私に何か買ってくれたり、どこかへ連れて行ってくれたりするだけ。

 だからお金に余裕はあるけれど、できるだけ節約に努めて、桔平くんの収入から貯蓄へ回す分を増やしてもらっている。それは、桔平くんには何があっても絵を描き続けてほしいからだった。

 芸術の世界で生きていくのは本当に大変なことで、ただ絵を描くだけで生計を立てるのは難しい。私に苦労をかけるぐらいなら絵を捨てるとキッパリ言ってくれたけれど、私は描き続けてほしいの。そのためにする苦労なんて、苦労じゃないもん。

 だけど桔平くんは言ったことを必ず守る人だから、今のうちにできるだけ貯蓄を増やして将来の心配事を減らしておこうという作戦。大学を卒業したら私は就職するし、仮に桔平くんの収入がなくても問題ないはず。

 ただ、子供ができたときのことも考えないといけない。もちろん計画的にしたいところだけど、同棲前にお父さんが言っていたように万が一ってことがあるもんね。

 そんなアレコレを想定しながら、とあるものを作ってみた。

「人生計画書~?」
「うん、とりあえず向こう7年間の。主にお金のことです」

 枕を背もたれにしてベッドで本を読んでいた桔平くんに、作った計画書を渡す。渋々といった様子で受け取って、目を通しはじめるけれど……ちょっと、口がへの字なんですけど。何が不満なのよ。
 
「……相変わらず、細けぇな。プランA……B……C……いくつあんの」
「プランNまで」
「マジか」

 だって、途中で起こりうるリスクとか考えられる出費とかを想定したら、そうなったんだもん。今後、更に増える可能性も十分あるけども。
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