ホウセンカ
スズラン香る道の先
「桔平君から見て、最近の愛茉ちゃんってどう?」

 巨大なヒマワリの迷路を歩きながら、智美さんに尋ねられた。

 お父さんと愛茉ペアとの競争をしているわけだが、オレも智美さんも勝負に勝つ気があまりないので、写真を撮りながらゆっくり歩いている。

「どうっていうのは?」
「去年と比べて、何か変わったかなぁって。雰囲気とか」

 自分が愛茉に受け入れられているのか、本当は心配だったのかもしれない。再婚相手の連れ子に気を遣うのは仕方のないことだろう。本條さんも、オレに対してかなり気を遣っていたと思う。
 
「最近の愛茉は……どんどん幼児退行してるかな」
「あはは!幼児退行!」
「まぁ、良い傾向だと思いますよ。愛茉の場合は子供の頃に子供らしい過ごし方ができなかったわけだし、急いで大人になる必要はねぇかなって。本人は大人の階段がどうのこうの言ってたから、多分大人になった気でいますけど」

 20歳を特別なものに感じているらしいが、誕生日が来たからといって、突然大人になれるわけがない。ただでさえ、愛茉は子供っぽい性格だというのに。

 そんな話をしていると、どこからか愛茉の声が聞こえてきた。どちらの方向へ進むのか、お父さんと言い争っているらしい。
 その声を聞いて、智美さんが小さく吹き出す。

「ふふ、可愛いなぁ。愛茉ちゃんには、遠慮せず子供でいてほしいって思ってるのよね。だから、ついつい甘やかしちゃう」
「一緒に住んでるわけじゃねぇし、たまに会った時ぐらいは、どんどん甘やかしてやってください。それが智美さんの心の安定に繋がるんだろうし」

 智美さんが、オレの顔を見て目を丸くする。不思議と、その表情が愛茉に似ている気がした。

「……桔平君って、本当に賢い子ねぇ。というより心が繊細なのかな。人生、何周目?」
「3周目ぐらいですかね」
「やだ、大先輩じゃない」

 自分の子供を授かることができない人に、どうしてこれほどの母性が与えられたのだろうか。これが神の仕業だとしたら、あまりにも残酷だ。

 ただ今は、愛茉を可愛がることが智美さん自身の幸せにも繋がっているのだろう。愛する人の娘に母性行動を向けて、自分自身を癒している。愛茉は愛茉で、子供の頃に失った母親の愛情を智美さんに求めていた。

 2人ともその自覚はあるようだが、もし同居していつも一緒にいるのであれば、共依存になりかねない。智美さんは思慮深くて聡い人なので、そのことも理解しているようだった。
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