ホウセンカ
「あぁ、まぁ……アイツ恐ろしく気が強いしな……それに言い返す愛茉も相当だと思うけど……」
「だぁって、言われっぱなしは悔しいんだもん。小型犬ってなに?好きで小さく生まれたわけじゃないしっ!」
「怒りのポイント、そこかよ」

 本当は、それだけじゃないけどね。だけど桔平くんには言わない。余計なことだと思うから。

「仲良くしろなんて言わねぇけどさ。言える立場でもねぇし。ただ……」
「大丈夫、分かってる。ムカつくしヤキモチもあるけど、スミレさんには感謝してるもん。桔平くんの画家としての道を真剣に考えてくれてるから。それに個展が終わっても、今後関わっていくんだろうし」
「……そうだな。おし、キャベツ綺麗に剥がれた」

 子供みたいな顔で桔平くんが笑う。手先が器用だから、こういうのは桔平くんに任せるに限るなぁ。
 
「オレはさ、信用も信頼もしてるんだよ。スミレのこと。アイツの目は確かだし、思い込みや感情のフィルターなしで絵を見るから」
「うん、そうなんだろうね」
「それに、常に知識を身につける努力をしている。そういうところ、すげぇ尊敬してんの。父さんの名前に乗っかるのが嫌だって気持ちは、今でもあるけどさ。それでも今回はアイツのプロデュースに任せようと思ってるよ。オレはただ、絵を描くだけだ」

 そうは言っても、本当はまだ不安が大きいんだろうな。やると決めたからには前に進むしかない。きっと、そう思っているだけ。

 私がサポートできる部分って、とても少ないよね。絵についてはまったく分からないし、スミレさんに任せるしかない。でも私は私で、やれることをやる。そうやって腹を括らなくちゃ。

「……そういや、ひとつ相談があってさ」

 出来上がったロールキャベツを食べている時、桔平くんが遠慮気味に切り出した。
 
「なぁに?」
「近くで、アトリエ用の部屋を借りたいんだよ。個展の絵を学校で描くわけにはいかねぇし、長期間の制作になるから、家に置きっぱなしってのもなぁと思って」
「あ、そっか。そうだね」
「ただ、家からあまり離れてるのも嫌なんだよな。だからこの周辺で6万か7万ぐらいのワンルームを借りたくて、家計を預かる愛茉さんに稟議を上げさせていただきたく……」

 ものすごく低姿勢な桔平くん。まぁ、当たり前だけど。支出が思いきり増えるんだから。

 部屋を借りるのかぁ。家賃が7万ぐらいだとして、光熱費入れても8万まではいかないよね。それくらいなら大丈夫かな。投資の利益も結構増えたし。

 でも洋服とかコスメを買うのは控えて、もう少し節約しよう。私が就職するまで、あと2年もあるんだもん。
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