ホウセンカ
「庇護欲を掻き立てるっていうのかしら。いいわよね。小さくて可愛くて、少し目を潤ませるだけで周りが守ってくれるんだから。でも、恋人に寄りかかって依存して生きていくタイプにも見えるのよ。常に誰かが傍にいないといけなくて、自立できないって感じ」

 面と向かって明確に「嫌い」なんて言われたのは、初めてかもしれない。あまりにビックリして、心臓がドキドキしている。

 だけど、あいにく自分に対する悪口には免疫があるんですよ。そんなこと言われても、全然怯みませんから。怯んでなるものか。
 
「桔平は、貴女のどこが良くて付き合ってるのかしらね」
「本人に直接聞いてください。ていうか私がどんな女だろうと、桔平くんの手を離したスミレさんには関係ないと思いますけど」

 そうだよ。桔平くんにトラウマを植え付けたのは、この人じゃない。あの純粋な愛情を手放したのはスミレさん自身。それなのに、こんなこと言われる筋合いない。もう、ムカムカしてきた。

 私が言い返したのを見て、スミレさんは驚くわけでもなく、すっと目を細める。なんだかとても余裕の表情に見えて、余計に腹が立つ。
 
「……なるほど。気は強いのね」
「こう見えても、いろいろな思いをして生きてきたので。黙って言われっぱなしにはなりません」
「小型犬の方が負けん気は強いって言うものね。安心したわ。桔平は優しすぎるから、貴女ぐらいがちょうどいいのかもね」

 やっぱり仲良くはなれない。するつもりもなかったけど。ただ波風を立てないように、桔平くんの邪魔にならないように、あくまでもビジネスとして良い関係を築いていこうと思っていただけ。

 恋のライバルとは違うし、友達なんかでもない。桔平くんの画家としての道をサポートする。その目的が一致している、いわば同志みたいなもの。私とスミレさんとの繋がりは、それだけなんだ。
 
「良い絵が描けるように、桔平をサポートしてあげてね」

 ここぞとばかりにスイーツを食べた後、そう言われた。桔平くんの邪魔だけはするなという警告の意味もあるんだろうな。
 なんとなく餌付けをされたような気分で、パンパンに膨れたお腹をさすりながら帰宅した。
 
「……何なんだよ、その寒気のするやり取りは」

 一緒に夕ご飯の支度をしながら昼間の出来事を話すと、桔平くんはキャベツの葉を1枚ずつ剥がしながら顔を引きつらせた。ちなみに、今日のメニューはロールキャベツです。

「ビックリよ。普通、面と向かって嫌いとか言う?スミレさんって裏表はないんだろうけど、毒舌だよね」

 言いながらまた感情がぶり返してきて、ついつい玉ねぎを細かく切り刻む。いや、みじん切りだし細かくするのは当たり前なんだけどさ。
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